望み
しかし無一郎の刀の効力も、玄弥の術の効力も間もなく消えようとしていました。
頭を再生した黒死牟は化け物のような姿に。
それでも頚を落とされた直後で体が脆いはずだと攻撃を続ける悲鳴嶼と実弥。
ふと、実弥の刀に自分の姿を見た黒死牟。
何だこの、醜い姿は……
かつて縁壱が微笑みながらこう言いました。
これが侍の姿か?と己に疑念を抱く黒死牟。
これが本当に俺の望みだったのか?
次の瞬間、無一郎に刺された場所が崩れていきます。
そこにすかさず攻撃を畳みかけられ、技が出せなくなります。
頚を落とされ体を刻まれ潰され、負けを認めない醜さに黒死牟は生き恥を覚えます。
こんなことの為に何百年も生きてきたのか?と自問する黒死牟。
彼らが生まれた時代、双子は不吉とされ当初は不気味な痣がある縁壱を殺す予定でしたが、彼らの母親が怒り狂ったため縁壱は10歳になったら寺へ出家させることに。
兄弟でありながら部屋から食べる物に至るまで差をつけられました。
そのせいかいつも母親の左半身にしがみつき、母親離れが出来ない弟を黒死牟は子供ながらに可哀想だと思っていた黒死牟。
特別
時々父の目を盗んでは弟の部屋に遊びに行っていました。
ある日自分で作った笛を渡しましたが縁壱は笑うことすらなく、七つになるまで喋らなかったので耳が聞こえていないと思われていました。
しかし七つになった頃、黒死牟が素振りをしているといつの間にか傍にいた縁壱は「兄上の夢はこの国で一番強い侍になることですか?」と訊ねてきました。
息が止まる程驚いた黒死牟は顔を綻ばせる弟を気味悪く思います。
その後縁壱は稽古中教えてほしいと乞うようになったので、戯れで父が竹刀を持たせてみると瞬きする間に四発叩き込まれ父親は失神。
その後人を打ちつける感触は不快なものと感じた縁壱は侍になりたいと言わなくなりましたが、黒死牟が強さの秘密を知りたくて問い詰めると縁壱の目には生き物の体が透けて見えるのだと分かります。
生まれつきの特別な資格とそれに即応できる身体能力を持った弟。
今まで哀れんでいた者は己より遥かに優れていることを知った黒死牟。
立場が逆転したと感じる黒死牟に、ある夜縁壱が訪ねてきます。
母上が身罷られたと言うのです。
詳細は側務めに聞くように言い、このまま寺に発つと宣言する縁壱。
いつか黒死牟があげた笛を取り出し、「いただいたこの笛を兄上だと思い、日々精進致します」と、その笛を宝物のように懐にしまいました。
母の日記によると、縁壱は自分が後継ぎに据えられていると気付き予定より早く家を出ることにしたこと、母の病も死期も悟っていたこと、母は何年も前から左半身が不自由になっていたことが分かりました。
そう、縁壱は母親にしがみついていたのではなく、彼女を支えていたのでした。
知った瞬間、黒死牟は嫉妬で全身が灼けつく音を聞き、縁壱という天才を心底憎悪したのです。
父が縁壱を連れ戻す為寺に使いをやりましたが、彼は忽然と消息を絶っていました。