なぜ
黒死牟は実に400年ぶりとなる、平成が足元から瓦解する感覚を味わっていました。
400年前の紅い月の夜————。
黒死牟は信じられないものを目にしました。
黒死牟と対峙していたのは老いた双子の弟、継国縁壱。
当時最後に会ったのが60年前だったので、縁壱は既に80歳を超えている筈でした。
痣が発言したにも拘わらず何故生きているのかと問う黒死牟に、縁壱は静かに涙を流しました
老いた弟に憐みを抱かれても不思議と憤りは感じませんでした。
ただ、目障りに思っていた筈なのに弟のしわがれた声と涙を流している様子に込み上げてくるものがありました。
人の頃であった肉の片割れだろうと、鬼狩りである限り殺さねばならない。
自分の予期せぬ同様に困惑する黒死牟でしたが、次の瞬間その感傷も吹き飛びました。
刀を構えた縁壱から凄まじい圧を感じる黒死牟。
何故いつもお前が、お前だけがいつもいつも特別なのか。
弟に強い憎しみを向ける黒死牟
同時に既に己が敗北することも悟っていましたが、黒死牟の頚を落とすはずの一撃が放たれることは終ぞありませんでした。
縁壱は刀を持ち両立したまま寿命が尽きて絶命していたのです。
あともうひと呼吸縁壱の寿命が長ければ自分は負けていたと、黒死牟は屈辱を何百年も味わい続けることになります。
縁壱が死んだ以上誉れ高き死が訪れることはないと、鬼狩りの歴史上最も優れた剣士が死んだことで黒死牟は見にくい姿になってまで勝ち続けることを選んだのでした。
守る
場面が現在に戻り、黒死牟は咆哮を上げ自身に絡み付く血鬼術諸共悲鳴嶼たちを吹き飛ばます。
無一郎の胴体と足は切り離され、玄弥も右上半身を失いました。
黒死牟は体中から刃を生やした状態に。
振り動作無しで生やした刃の分だけ攻撃を放った黒死牟に無一郎の焦りが募ります。
仮にここで黒死牟を倒したとしてもまだ無惨が残っているのです、悲鳴嶼も実弥も死ぬまで戦うでしょうが「二人までここで死なせちゃいけない」と強く思う無一郎。
俺が、死ぬ、前に。
その思いに呼応するように、黒死牟の体を貫く無一郎の刀が赤く染まっていきました。
内臓を灼かれるような激痛に体を強張らせる黒死牟。
玄弥もまた、瀕死の状態の中「皆を守る」という最後の思いを募らせていました。
血鬼…術…
まだ黒死牟の体には玄弥の肉弾が残っています。
再び木の血鬼術が発動し黒死牟の動きを固定、木は黒死牟の血を吸って黒死牟が技を繰り出すのを阻止していました。
後継
縁壱と同じ赤い刃を見て、かつての会話が黒死牟の脳裏に過ります。
後継をどうするつもりだ。
かつて黒死牟が人だった頃、弟にそう問いかけました。
縁壱は「自分たちは大そうな物ではない」といい、自分たちの才能を凌ぐ者が今も産声を上げていると達観した様子です。
実弥の刀と悲鳴嶼の武器が合わさり、ついに黒死牟の頚が落とされました。
弟の微笑みを思い出す黒死牟。
お前が笑う時いつも俺は気味が悪くて仕方がなかった。
特別なのは自分たちの世代だけだと慢心していた黒死牟は、未来を楽観する弟に気味の悪さと苛立ちを感じていました。
胴を両断しても刀から手を離さない無一郎も。
人間でありながら血鬼術を使う玄弥も。
斬られても斬られても失血死しない実弥も。
鬼に匹敵する成長速度を見せ限界を超える悲鳴嶼も。
日の呼吸の使い手でない者たちが刃を赤く染めるのも。
そんな未来を想像して何が面白いのか、二度と敗北しないと誓った黒死牟。
頸を落とされてなお動き続ける黒死牟に、悲鳴嶼が攻撃の手を緩めるなと声を上げました。
時透と玄弥の命を決して無駄にするな。
実弥の目からは涙が溢れ、それでも「消えて無くなるまで切り刻む」と攻撃を続けます。