鬼
強奪した金で家や飯をまかない、必要のない贅沢をするような家の生まれだった伊黒。
女ばかりの家系で、男である伊黒が生まれたのは実に370年ぶりのことだったそうです。
伊黒は生まれてから座敷牢に入れられ、母を始めとする親戚は毎日食い物を差し出していました。
吐き気を催してとても食事に手を付ける気にはなれなかった伊黒。
夜になると巨大なものが這いずり回る不気味な音、粘りつく様な視線を感じていました。
12になったころ牢から出された伊黒は、音と視線の正体である下肢が蛇のような女の鬼と対面します。
伊黒の一族は、この鬼が人を殺して奪った金品で生計を立て、代わりに赤子が好物だと言う鬼に自分たちの子供を生け贄として捧げていたのです。
伊黒は男で風変わりな目をしており鬼に気に入られ、成長して喰える量が増えるまで生かされていたのでした。
鬼は伊黒がもう少しだけ大きくなってから食べると決めます。
代わりに、鬼は自分の口と同じ形に揃えると言って伊黒の口を切り裂きそこから溢れる血を飲んだのでした。
牢に戻された伊黒は、逃げる事・生きる事・それだけを考え、盗んだ簪で少しずつ木の格子を削り続けました。
その頃、蛇の鏑丸と出会い心を通わせていきます。
逃げることに成功した伊黒は途中で追いつかれましたが、間一髪の所で当時の炎柱に救われたのでした。
しかし生き残った従姉妹は、あんたが逃げた所為でみんな殺されたと激しく伊黒を罵ります。
彼女の罵倒に正統性を感じることはありませんでしたが、確かに伊黒の心を抉りました。
クズ
屑の一族に生まれた自分もまた屑と、深い業を背負い込んだ伊黒。
誰かの為に命を懸けると自分が少しだけいいものになれた気がしました。
それでも消えない恨みがましい目をした、死んでいった一族の人間の腐った手が伊黒の体を掴んで爪を立てている間隔は消えませんでした。
無惨を倒して死にたい、それで自分の汚い血が浄化されるように。
それが伊黒の願いでした。
鬼の居ない平和な世界でもう一度人間に生まれ変われたら、今度は必ず君に好きと伝える。
死闘の一方、隠の人間は一般人を戦いの場から遠ざけていました。
そんな彼らの手をすり抜けるように走る猫――茶々丸が戦場に向かっていました。
死闘の場では、死んでいった鬼殺隊の人間の為にも負けることは許されないと懸命に闘う伊黒。
握力の限界を感じながらも必死で刀を振るう義勇。
しかしこのままでは夜明けまでもたない、だれもがそう感じていたその時、茶々丸が戦場の宙を舞います。
そこから放たれたのは謎の注射器。
無惨の手によって茶々丸の体は崩れますが、注射を打たれた柱たちの傷や激痛は和らいでいきました。
珠世の差し金かと苛立つ無惨。
更に攻撃が激しくなっていきます。
鴉の報告から、刀を強く、万力の握力で握ることで刀の温度を上げることが出来たのではないかと推察する伊黒。
伊黒の刀が赤く染まって行きます。
しかし刀身を赤くすることに躍起になり過ぎて酸欠に陥る伊黒。
叫ぶ実弥、助けに入る義勇。
間に合わなかった…そう思った義勇でしたが、気づけば伊黒の体は高く空に飛んで攻撃を避けていました。
不自然な伊黒の動き、無惨は姿こそ見えないがだれかがいると感じ取ります。
動け
一人…二人…三人。
善逸、伊之助、カナヲの3人でした。
愈史郎の授けた札をつけることで無惨の目を眩ましていました。
隙をついて赤い刀で切りかかる伊黒、やはり赤い刀で斬ると再生は遅くなるようです。
僅かに余裕が生まれたことで、武器同士を強く合わせ刀身を赤くし攻撃力を上げる柱。
夜明けまで約一時間。
一方、治療を受けている炭治郎は危うい状況。
脈が弱まって行き、愈史郎がダメかと思いかけた時、刀を握りしめた炭治郎の手から物凄い音が鳴りました。
次の瞬間、かっと目を開ける炭治郎。
一方、僅かに勝機が生まれたと思われた悲鳴嶼たちでしたが、無惨の大技を受けてほぼ全員四方に散らされ気絶。
唯一その場に残ったカナヲも、「速すぎる」と絶望的な表情。
早く、立って、足、動け。
死んでも倒す、自分も姉さんみたいに最期までちゃんとやると強く思うカナヲでしたが、心が折れたのか足が動きません。
無惨が腕を振り上げカナヲに止めを刺そうとした、その時でした。
ヒノカミ神楽、輝輝恩光。
火柱が無惨の腕を焼き、カナヲの体を抱えていたのは――炭治郎です。
終わりに…
遅くなってごめん、とカナヲに誤り近くにいた隠に彼女を託す炭治郎。
その顔の右半分は、無惨の毒によって醜く爛れていました。
これではどちらが鬼かわからないな、竈門炭治郎。
縁壱を思い出して忌々しい気分になる無惨。
終わりにしよう、無惨。
静かに告げる炭治郎。
炭治郎は夢の中で、何度も縁壱の日の呼吸を見て格段に理解度を上げていました。
縁壱は物静かで素朴な人で、そんな彼の技をつぶさに見ていた炭吉、彼の目を通してみていた炭治郎。
縁壱の日の呼吸の型は息を忘れる程美しいものでした。
最後に耳飾りを炭吉に託していった縁壱に、炭治郎はもう彼はここに来ないと悟ります。
耳飾りも日の呼吸も後世に伝えると約束した炭吉。
縁壱はありがとう、と微笑みました。
日の呼吸は全部で12の型あります。
そして無惨の体の造りを見て、炭治郎は12の型を繰り返すことで円環になり13個目の型になると確信しました。
それを成すには、無惨の攻撃を潜り抜けつつ夜明けまで脳と心臓を斬り続けなければなりません。
きっと地獄を見ることになるだろうと思う炭治郎。
縁壱にすらできなかったことが自分にできるのだろうか?
それでも炭治郎は、今自分に出来ることを精一杯やると心を燃やします。